3.毒抜きの方法

marcy

 栽培種ができるためには、
 まずは野生種を利用しないと
 いけないですよね。

tomo

 はい、そうですね。

marcy

 でも、野生種のじゃがいもは、
 めっちゃソラニン濃度が高い。
 つまり、これを利用するためには、
 毒抜きの方法を発見しないといけない。

tomo

 はい、はい。

marcy

 ただし、やっき見た通り、
 加熱では分解されない。
 ではどうやって、
 原住民たちは毒抜きをしたのかを
 見ていきます。

tomo

 これ、めっちゃ気になりますね。

marcy

 僕は知ってしまっているのでアレですが、
 どうやったと思いますか(笑)

tomo

 そうですね…加熱は試しているとして、
 他の方法…ん~
 少し水に溶ける要素があったので…

marcy

 おぉ!

tomo

 水に浸けるとか、
 その水にアルカロイドを
 吸着してくれる野草みたいなのを
 入れるとか…。

marcy

 なるほどです(笑)
 ではまず現地のこと、
 中央アンデス高地の
 気象条件から把握しておきます。

tomo

 はい。

marcy

 中央アンデス高地は、
 10月~3月までが雨季。
 雨が大量に降る。
 
 そして4月~9月が乾期。
 乾期は、湿度が低い。
 かつ、一日の気温変化が
 非常に激しい時期です。

tomo

 なるほど。

marcy

 日中は熱いけど、
 夜は氷点下(-5~6℃)になるのが
 この地域の環境です。

tomo

 はいはいはい。
 激しい環境ですね、これは。

marcy

 そうそう。言い換えると、
 この環境があったから、
 いもという植物が存在した。
 乾期を乗り越えるために、
 養分を蓄えたと言ってましたよね。
 同時に、毒抜きもこの環境を
 利用しています。

tomo

 えぇ!

marcy

 さぁ、どんな方法が
 考えられるでしょうか(笑)

pino

 ん~…
 茹でて干して、茹でて干してを
 繰り返す。

marcy

 おぉ!すごいいいとこいってる!
 茹でてはないんだけど、
 仕組みは合ってる。

pino

 水に浸けるの?

marcy

 浸けはしないんだけど、
 じゃあ見ていこう。

pino

 うん。

marcy

 まず乾期に、
 外にじゃがいもを並べて広げ
 放置します。

pino

 へぇ~。

marcy

 乾期は、夜に気温がぐっと下がるので、
 夜にじゃがいもが凍ります。

tomo

 はい。

marcy

 次の日中、
 そのまま置いておいたら、溶けます。

tomo

 ほうほう。

marcy

 これを繰り返すと、
 組織の中の水分が、
 凍って溶けてを繰り返し、
 細胞が壊れ、
 水分がしみ出る状態になります。

 この、ブヨブヨになった状態のものを
 集めて足で踏むと、
 脱水ができるようになります。

pino

 ふ~ん。

marcy

 そうすると水分がジューと出てくる。
 今度はこれを数日間放置すると、
 湿度が低く気温が高いおかげで
 乾かすことができる。

tomo

 なるほど~。

marcy

 ソラニンは、細胞の中の
 液胞に存在することが多いので、
 細胞を壊した状態で水分を絞れば、
 ソラニンも出ていく。

pino

 へぇ~!

marcy

 こんな方法を発見して、
 野生種のじゃがいもを
 利用していたようです。

tomo

 なるほど!

marcy

 ちなみに、こうやって毒抜きして
 乾燥したものを「チューニョ」と呼びます。

tomo

 チューニョ。

marcy

 現在も作られているそうで、
 大きさはゴルフボールの1/2~1/3くらい。
 状態がよければ、
 数年は保存できるみたいです。

tomo

 めっちゃ保ちますね。

marcy

 うんうん。
 これ、おもしろいのが、
 日本にもチューニョと似た方法で作る
 保存食があるんですよ。

tomo

 まじですか。

marcy

 山梨県に「凍み芋」と呼ばれる
 伝統食があって。
 これは掘ったじゃがいもを放置して、
 夜に凍結、昼に解凍を繰り返して
 自然乾燥させる。
 山梨県鳴沢地域の伝統食。
 富士山がある辺りですね。

tomo

 へぇ~!

marcy

 北海道にも「しばれ芋」という
 似た保存食があります。

 もちろん、日本にじゃがいもが
 やってきたときは、
 すでに野生種ではないです。
 でもこの3つが作られているのは、
 どれも寒い地域ですよね。
 
 寒い地域で条件がそろい
 じゃがいもを利用したいと思うと、
 外の情報を知らなくても
 みんな同じ方法に辿り着く、
 というおもしろさがあります。

tomo

 ほんとだ(笑)

marcy

 なぜ、寒い地域で
 同じ方法になるのかというと、
 寒いということは、
 穀物が育ちにくい。
 すると、食料はいも類などに
 依存しがちになる。

tomo

 うんうん。

marcy

 でも、生のじゃがいもなどは、
 長期間保存できないので、
 乾燥品にする必要がある。
 
 そのときどうやるかというと、
 凍らして解かして乾かすという
 結論に辿り着く。
 これがおもしろいなぁって。

tomo

 すごいですね(笑)

marcy

 外部環境がそろうと、
 似た行動になるんだなぁと。

tomo

 うんうん。

marcy

 こんな感じで、アンデス現地の人々は
 毒抜きの方法を発見して、
 野生種を利用して、
 何千年もかけて栽培種をつくった。
 そして現在の僕たちが食べているのは、
 たった1種類の栽培種。

tomo

 うわぁ、そうだったんだ。

marcy

 僕たちは今日の前半部分で、
 じゃがいもには毒があるから気をつけよう、
 という話をしてましたけど、
 野生種を利用していた当時の人からしたら、
 「そんなのほとんど毒入ってないやん!」
 くらいのノリです(笑)

pino

 (笑)

tomo

 なるほど(笑)

marcy

 もしこの方法が発見されてなかったら、
 野生種を利用することができず
 栽培種にはつながらなかった。

tomo

 そうか、そうか。

marcy

 原産地で栽培種ができなかったら、
 世界中に広まることもなかった。
 なぜかというと、
 ヨーロッパにはそもそもイモがないし、
 日本にもじゃがいもはなかったので。

tomo

 そうですよね。

marcy

 だから、アンデスの原住民、
 マジサンキューということです。

pino

 (笑)

tomo

 ありがとう(笑)
 だって、何千年もちょっとずつ
 やっていったわけですもんね。

marcy

 そうそう。
 ちょっと大きいのがあるから
 コイツを増やそうとか、
 そんな繰り返しですよね。

 なんでそんな努力をしたのかも
 さっき言った通り、
 アンデスが高地すぎて
 普通の作物が育たないからで。
 小麦や稲は育たないし、
 トウモロコシは食べているんですが、
 育つ標高にも限界がある。

 じゃがいもはそれよりも
 高い地域で育つので、
 これを利用しないといけない。
 だから、これだけ毒があっても
 なんとか利用しようと続けてきた。
 もし、他に都合のいい作物があれば、
 この努力はしていなかっただろうと
 思います。

tomo

 なるほど。
 必要にせまられて、
 知恵を絞った感じですね。
 すごいな、ふつうはこれだけ毒があれば
 食べるのやめそうですけど、
 他のものに比べれば
 可能性があったのでしょうね。

marcy

 そうでしょうね。
 今、この野生種があったとしても、
 僕らは利用する努力をしないでしょうから。
 でも、これしかないとなったら、
 なんとか工夫すると。

tomo

 あとは、おいしかったのかも
 しれないですよね。

marcy

 たしかに。
 でんぷんを蓄えているから、
 本能的にエネルギー源になることは
 感じられたのかもしれないですね。
 糖質だから。

tomo

 なるほど。
 食べられる、けど、
 お腹痛くなるしなんとかしよう…って。

marcy

 そうですよね、
 ぜったい途中で何人も
 中毒起こってますよね。

tomo

 何人も起こってますね。

marcy

 でもそれを乗り越えて発見するのが、
 やっぱりすごいです。

tomo

 すごいなぁ。

marcy

 以上、もっとも身近な毒である
 じゃがいものソラニンは、
 こんな感じで始まったよというお話でした。

tomo

 おもしろいですねぇ~
 ありがとうございました。


第6話 振り返りトーク
1.野菜は変化してきた

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*参考文献を基にしておりますが、厳密な考証は行っておりません。あくまで「趣味のおしゃべり」として、楽しんでいただけると幸いです。

参考文献
ジャガイモのきた道/山本紀夫/岩波新書/2008
ジャガイモの世界史/伊藤章冶/中公新書/2008
ジャガイモの歴史/アンドルー・F・スミス/原書房/2014
へんな毒 すごい毒/田中真知/ちくま文庫/2016
世界史を大きく動かした植物/稲垣栄洋/PHP/2018
海が運んだジャガイモの歴史/田口一夫/梓書房/2016
食中毒統計資料令和4~元年/厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html
食品中の天然毒素「ソラニン」や「チャコニン」に関する情報/農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/solanine/
有毒植物による食中毒に注意しましょう/厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/yuudoku/index.html